特別顧問  岡野 弘彦(おかの ひろひこ)

■プロフィール(2010年時)

大正13年、三重県生まれ。

國學院大学国文科卒業

折口信夫(釈迢空)に師事。

短歌創作と古代研究の両方で独自の優れた成果を挙げている。

日本藝術院会員、國學院大学名誉教授、読売歌壇選者。

迢空賞、読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲三等瑞宝章、日本藝術院賞等を受賞。

若山牧水賞選考委員を、第1回から第15回まで務めた。

                  著作は歌集・評論集ほか多数。

 

 宮廷を中心とした日本の貴族文学の中では、海への健康な感覚が衰えていきます。やっと近代が近づいてきたころ、幾らか海を表現した歌集が出たりします。江戸時代の末期のころ、加納諸平の歌集『柿園詠草』などには、熊野を旅したときの海の歌なんか出てまいります。しかし、結局海の感覚が本当に歌の上に花開くのは実は近代に入ってから、そして子規が日清戦争に従軍したり、鉄幹が韓国へ出かけていったりしてそういう歌を詠む、そういうあたりから海への視野が開けてくる。しかし、本当に海の世界への思ひが花開くのは実は牧水が明治四十一年ですね、『海の声』という歌集を出す。これは、激しくて、苦しい恋をして、房総半島へ行くのです。そして、情熱的で苦しい思いを込めた恋の歌をうたう。当然、「海」と「恋」とが大きなテーマになるわけです。
※講演「古代海女族の文学と牧水」より