選考委員  佐佐木 幸綱(ささき ゆきつな)

■プロフィール(1997年時)

昭和13年、東京都生まれ。

早稲田大学大学院修士課程修了。
作歌、歌論に於いて現代の短歌会をリードする力強いトップランナー。
歌誌「心の花」編集長。朝日歌壇選者等。

迢空賞、第2回若山牧水賞、斎藤茂吉短歌文学賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章等を受賞。
若山牧水賞選考委員を第1回から務める。
著作は歌集・評論集ほか多数。

 

 牧水の「酒の歌」は八千首のうち三百五十首ほどですが、「近代人の孤独」といいますか、あるいは「<われ>の悲しみ」といいますか、そういう形而上的なものが牧水の「酒の歌」には独特なかたちであらわれている。近代という時代は、自分で自分を生きることを始めた時代だったのですね。それまでは家のために生きるとか、何かのために生きることが前提としてあった。それがそうではなく、「個の自覚」がなされた時代が近代だった。牧水の「酒の歌」はそういう時代の短歌だった。悲しい酒、寂しい酒がたくさん歌われています。センチメンタルな歌だと言ってしまえばそれまでですけれども、その底に、「近代人の孤独」があり、「<われ>の悲しみ」がある。そういうところが、私たちの心に沁みてくる。それを文学史の中できちっと位置づけておきたい、そう考えています。
※講演「牧水と酒」より